薬屋のひとりごと
The Apothecary Diaries
毒を見抜く少女の目は、後宮という「構造」そのものを解剖する。
薬屋のひとりごとは、後宮を舞台にしたミステリーとして人気を博しています。薬学の知識を持つ少女・猫猫(マオマオ)が事件を解決する痛快さがこの作品の魅力として語られがちですが、構造を分解すると、もっと巧みな設計が浮かび上がってくる。猫猫が解く謎の一つひとつが、実は後宮という閉鎖空間の「権力構造」を暴いていく装置になっている。毒と薬は表裏一体──それはこの物語の構造そのものです。人を救う知識が権力を生み、権力が人を殺す。猫猫はその連鎖の中で、ただ「真実」だけを見ようとする。
物語の設計図
設計図のここがすごい
分析を終えて
フローチャートに起こして最も印象に残ったのは、1巻のほぼ全ての事件が「おしろい(鉛毒)」という一つのモチーフで繋がっていることです。御子の衰弱、風明の復讐、赤子の取り違え──バラバラに見えた事件が、一つの物質を通じて35年前まで遡る。ミステリーとしての設計が本当に美しい。
猫猫というキャラクターの設計にも唸りました。権力に無関心で、毒に異常な興味を持ち、美貌にも身分にも動じない。これらの「変人要素」は全て、後宮ミステリーの探偵として必要な条件を構造的に満たしている。「変わった子」が「変わっているからこそ真実が見える」──この設計は天才的です。
そして何より、この物語が「女性の物語」として機能していること。後宮という閉鎖空間で、妃も侍女も下女も、それぞれの立場で権力構造に翻弄されている。風明の「忠義が暴走した復讐」は、構造の犠牲者が構造の加害者になる悲劇です。猫猫はその構造を見抜くが、変えることはできない。
「毒と薬は同じもの」──この作品のテーゼは、知識と権力の関係にも当てはまります。知識は人を救うこともあれば、殺すこともある。猫猫はその境界線の上を、ひとりごとを呟きながら歩いていく。