構造分析 吉田秋生
BANANA FISH 表紙

BANANA FISH

Banana Fish

自由を手にした少年は、最期に銃ではなく手紙を選んだ。

BANANA FISHは「NYを舞台にした少年の復讐劇」として知られている。しかしその構造を分解すると、これは「支配」と「自由」の物語であり、全てのキャラクターがこの二項対立の座標上に精密に配置されていることが分かる。ゴルツィネの所有愛、バナナフィッシュの精神支配、月龍の権力支配──そして英二という「支配しない存在」。一人の少年が銃を捨て、手紙を選ぶまでの全19巻を、構造の目で読み解いてみよう。

物語の設計図

出来事 行動 心理
因果 伏線
アッシュ・リンクス、17歳。NYダウンタウンのストリートギャングのボス。IQ200の天才にして、幼少期からゴルツィネに「飼われた」少年
瀕死の男が「バナナフィッシュ」という言葉を残して死ぬ。アッシュの兄もこの言葉に囚われ廃人になっている
日本から来た奥村英二との出会い。アッシュの人生で初めての「対等な」関係
英二はアッシュを天才でも殺し屋でもなく「ただの同い年の友人」として見た。この普通の目線がアッシュの人生を変える
バナナフィッシュの正体──米軍が開発した究極の洗脳薬。人間の意志を完全に支配する
ゴルツィネがバナナフィッシュで政財界を操る陰謀を進めている。アッシュの兄はその実験体だった
親友ショーター・ウォンが月龍に脅され、アッシュを裏切る。友情と義理の間で引き裂かれて
ショーターにバナナフィッシュが投与される。洗脳されながら「俺を殺してくれ」とアッシュに懇願する
アッシュが親友を自らの手で射殺する──物語の転回点。個人の復讐が「もう誰にも」という闘争に変わる
ショーターの死は物語の構造的転回点。アッシュの戦いが「自分のため」から「もう誰にも」に変わる瞬間
李月龍──アッシュと同じ傷を負いながら、復讐と権力を選んだ「もう一人のアッシュ」
ブランカ──アッシュに戦いを教えた師匠が、敵として立ちはだかる
アッシュがゴルツィネの組織を壊滅させる。自分を支配した全てを叩き潰す最終戦争
英二が日本に帰国する。「僕の魂はいつも君と一緒だ」──手紙を残して
ラオに刺されたアッシュは、英二の手紙を読みながら図書館で息を引き取る
戦い続けた少年は、最期に戦いを選ばなかった。手紙の言葉の中で、ようやく「ただの少年」になった
最期の瞬間、アッシュは戦わない。銃ではなく手紙を選ぶ──それが「自由」の答えだった

設計図のここがすごい

分析を終えて

BANANA FISHの構造分析で最も印象的だったのは、「鏡」の多さだ。

アッシュと月龍、ショーターとラオ、ゴルツィネの愛と英二の愛、バナナフィッシュによる支配と英二の手紙による解放。この物語は至る所に鏡像を配置し、「同じ状況でも選択で結果が変わる」ことを繰り返し描いている。そしてその選択を分けるのは、能力でも意志の強さでもなく、「誰と出会ったか」だけだ。

ショーターの死のシーンは何度読んでも胸が潰れる。しかし構造的に見ると、あの瞬間がアッシュを「復讐者」から「解放者」に変える転換点であり、最終話の「戦わない選択」への布石でもある。ショーターが洗脳下で見せた最後の意志は、バナナフィッシュ──つまり「人間を支配する装置」に対する人間性の勝利宣言だ。

そして月龍。彼の存在がなければ、BANANA FISHは「天才少年の冒険譚」で終わっていただろう。月龍という鏡像があることで、アッシュの物語は「出会いが人生を変える」という、もっと普遍的な物語になった。月龍が英二を憎むあの目の奥にある絶望を見て、私は思う──もしアッシュが英二に出会わなかったら、彼もまた月龍になっていたのだ、と。

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