進撃の巨人
Attack on Titan
主人公が「ラスボス」になる物語を、あなたは1話目から目撃していた。
進撃の巨人は「壁の中の人類が巨人と戦う」サバイバルホラーとして始まります。しかしその構造を分解すると、これは少年漫画史上最も精密に設計された「視点反転装置」であることが分かる。敵だと思っていたものが味方になり、味方だと思っていた仲間が敵になり、最後には主人公自身が世界の敵になる。全34巻を通じて、諫山創は読者の「正義」を何度も書き換え続けました。そして最も恐ろしいのは、その全てが第1話に仕込まれていたということです。
物語の設計図
出来事 行動 心理
因果 伏線
原点
壁の中の世界。エレンは平和に暮らしながらも「壁の外」に焦がれていた
超大型巨人が壁を破壊。エレンは目の前で母を食われ、「全ての巨人を駆逐する」と誓う
「駆逐してやる」。この台詞が物語終盤で恐ろしい意味を帯びる
探求
訓練兵団を経て調査兵団へ。エレン自身が巨人化する能力を持つと判明する
仲間だったアニ、ライナー、ベルトルトが「敵」だった。巨人の正体は人間
真実
仲間を犠牲にして地下室にたどり着く。壁の外には文明があり、人類は滅んでいなかった
エルディア人は「巨人の民族」として世界中から憎まれていた。敵は巨人ではなく「世界」
物語のパラダイムシフト。「人類vs巨人」が「民族vs世界」に書き換わる
海を見たエレンの目は、向こう側の「敵」を見つめていた
反転
視点がマーレ側に移る。向こう側にも日常があり、正義がある
エレンがマーレを襲撃。かつて巨人にされたことを、今度は自分が繰り返す
結末
エレンが「地鳴らし」を発動。壁の中の超大型巨人で壁外の全人類を踏み潰す
仲間たちがエレンを止めるために戦う。かつての敵と手を組んで
ミカサがエレンを殺す。エレンの真意──仲間を英雄にするため、自ら悪魔になった
主人公がラスボスになり、ヒロインが殺す。少年漫画の文法を完全に破壊する結末
「いってらっしゃい」。1話の夢が、最終話の別れに繋がる
設計図のここがすごい
分析を終えて
フローに起こして改めて実感したのは、進撃の巨人がいかに「裏切りの物語」として設計されているかです。裏切りといっても、キャラクターの裏切りだけではありません。読者の「前提」そのものが裏切られ続ける。巨人は怪物→人間だった。壁は守り→檻だった。主人公は英雄→加害者になった。
この「前提の書き換え」が機能するのは、諫山創が「嘘をつかない」からです。振り返れば全ての伏線は提示されていた。ライナーの不自然な言動も、エレンの海を見る目も、第1話の夢も。読者が「見落としていた」だけで、作者は最初から見せていた。
そしてこの物語が「主人公を殺す」ことで完結する構造を持っていたことに驚きます。少年漫画の主人公は仲間を守り、世界を救い、成長する。エレン・イェーガーは仲間に殺され、世界を壊し、「子どもの頃から変わらなかった」。これは少年漫画というフォーマットへの最大の挑戦であり、最大の敬意でもあります。
進撃の巨人は「読むたびに違う物語になる」作品です。ぜひフローチャートを辿りながら、あなた自身の「壁」を壊してみてください。2周目は、全く違う景色が見えるはずです。